コメント:(memo)
※日本盤のみ日本語翻訳付き※
『Tenue』の最新作『Territorios』はスパニッシュハードコアの歴史を受け継ぎ、更新していく気概に満ち溢れた野心的な作品である。
スペイン、ガリシア州のパンクの歴史は古い。この土地に宿る文化的な風土は、独特な価値観を持ったバンドを数多く輩出することに貢献してきた。Ekkaia,Ictus,Madame Germenといったエモーショナルなパッションと哀愁を内包するスパニッシュハードコア勢の数多くがガリシア州の一区域から生まれてきた極めてローカルな突然変異であったことは既に知られている事実だが、その歴史は2021年の今日まで続いていることをこのTenueというバンドは見事に証明してくれた。
Tenueが初めてシーンに現れたのは2017年のDEMOで、耳の早いリスナーは既にチェックしていたかもしれないが、実際に大きな知名度を獲得したのは2018年リリースの前作『Anábasis』からだろう。欧州Screamoの文脈にある構成美、それと対極を成す激しく汚らしく歪ませたディストーションが響き渡るアルバムは大きな反響を得ておりTenueは一躍注目の新人バンドとしてシーンに躍り出た。しかし、当時そのサウンドはあくまでも「激情ハードコア」的であったと思うし、革新性やテーマ性といった点においては先人たちの残した名盤には及ぶほどではなかった。しかし本作「Territorios」は前作とは全く異なる方向性と意味を持つアルバムだ。収録されているのは約30分の長編曲の1曲のみ、そしてそれは現代社会に生きる人間の苦悩や怒りを表現しながら同時に、人間性とは、愛とは、幸福とは、という普遍的テーマへと大きな円を描きながら切り込んでいく。前作からの約4年、バンドが多くの経験を経て、表現、思想をより発展させ、大きく成長したことを伺わせるサウンドへと変貌した。
楽曲の長さはただ長ければドラマティックになるわけではない。その「長さ」への必然性が問われる。怒りや悲しみという感情の奥底にある、人間の普遍的な真実に到達するまでの時間が必要なのだ。長い時間をかけて意識の底へと降りていく、その「時間」がまさに、我々には必要だったのだと納得させられる。そしてこの「長さ」と作品の「テーマ性」は、表現の方向性は違えどまさにIctusの傑作アルバム『Imperivm』と同軸にあるものである。それはサウンドエンジニアにKhmer/IctusのIván Ferroを迎え、Kollapse Studioでレコーディングとマスタリングを行っていることからも決して出来すぎた偶然ではない。サウンドにも、表現にも、すべてに必然性があるのだ。
スパニッシュハードコア、ネオクラストの文脈を受け継ぎながら現代のEmo/Screamoシーンに対しても一石を投じるであろうと本作は日本からは3LAがリリース、そして海外では多くのネオクラストバンドをリリースしてきたドイツのALERTA ANTIFASCISTA RECORDS、現行Screamoをサポートし続けるカナダのZEGEMA BEACH RECORDSをはじめ、オーストリアのPIFIA RECORDS、ブラジルのCRUST OR DIE LABEL、USのTHE PLAGUE OF MAN RECORDSとの共同リリース!
tracklist:1. Territorios
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